モータースポーツを撮るという冒険。初心者に伝えたい“速さ”を写す7つの基本

初心者

モータースポーツの世界に足を踏み入れたとき、最初に立ちはだかる壁は「速すぎて、ピントが合わない」「撮ったけど、全部ブレていた」という現実です。目の前を轟音と共に駆け抜けるマシンに、シャッターがまるで追いつかない。初めての撮影では、誰もがそうした“焦り”を感じます。

けれど、ほんの少しの知識と準備で、世界は一変します。カメラの設定は、まるで冒険の地図のようなもの。どのルートを通るかによって、見える風景がまるで違ってくるのです。この章では、そんな“速さ”の世界に踏み込むための、最初の3つの鍵をご紹介します。

シャッタースピード優先モードで動きを捉える

モータースポーツ撮影の基本中の基本、それが「シャッタースピード」です。なぜなら、動きの速さを“止める”か“流す”か、そのどちらもシャッタースピードが決めるからです。

まずは「シャッタースピード優先モード(SまたはTv)」を選択し、1/1000秒を基準に設定してみましょう。これだけで、初心者でも“止まったように見える一瞬”を写真に収めることができます。たとえば、ピットアウト直後のタイヤの跳ね上げや、コーナーに突入する瞬間の緊張感。すべてはこの設定から始まります。

慣れてきたら、あえて1/250〜1/500秒まで落としてみてください。マシンのタイヤにわずかな回転ブレが入り、静止画の中に“動き”を感じさせることができるようになります。シャッタースピードは、写真の「体感速度」をコントロールする魔法のダイヤルなのです。

連写モードで決定的瞬間を逃さない

1コーナーに突っ込むマシン、ピットで目を閉じるドライバー、ゴールラインを駆け抜ける瞬間。その“決定的瞬間”は、たった0.1秒の中に存在します。だからこそ、1枚だけを狙うのではなく、「連写」という方法で時間の流れをすくい取る必要があります。

カメラの設定を「高速連写モード」にし、1秒間に10枚以上撮れるような性能を活かしましょう。例えばCanon EOS RシリーズやSONY αシリーズのような高速連写モデルは、動きの中の“呼吸”まで写し取ることができます。

ただし、連写は“数打てば当たる”ではなく、“流れの中で掴む”という感覚です。ファインダー越しにマシンの動きを追いながら、身体でリズムを刻むようにシャッターを切る。そうして初めて、「これは」という一枚に出会えるのです。

オートフォーカス設定を最適化する

モータースポーツにおいて最大の難敵が「ピントを合わせ続けること」です。猛スピードで接近してくる被写体に、カメラが迷いなくフォーカスを追従するには、AF(オートフォーカス)の設定が肝になります。

おすすめは「AF-C(コンティニュアスAF)」モード。この設定では、シャッター半押しやAFボタンを押している間、常に動き続ける被写体にピントを合わせ続けてくれます。また、フォーカスエリアは「中央1点AF」または「ゾーンAF」が使いやすく、特に初心者にとっては構図をシンプルにしつつ、ピントの精度も上がります。

さらに、機種によっては「被写体追尾AF」や「モータースポーツ用のAI認識AF」など、シーンに特化したモードも存在します。カメラが被写体を“認識”し、“追いかけてくれる”時代だからこそ、技術の力を味方につけることが、良い写真への最短ルートとなるのです。

印象に残る写真のための撮影テクニック

設定で“写る”ようになったその先にあるのは、記憶に残る1枚を撮るための工夫です。モータースポーツの写真は、ただピントが合っているだけでは、見る人の心を動かしません。そこに「スピード感」や「躍動感」が宿って初めて、見る者の体温を一度上げるような写真が生まれます。

この章では、“見せる写真”に近づくための具体的な撮影テクニックを2つご紹介します。ほんの少しのチャレンジが、写真の空気感を大きく変えてくれるはずです。

流し撮りでスピード感を演出する

「動いているものをあえてブレさせる」。そんな逆転の発想が生む表現が、モータースポーツ撮影における流し撮りです。背景が横に流れ、マシンだけがシャープに写るその一枚は、“速さ”を感じさせる代表的な技法です。

設定の目安は、シャッタースピードを1/60〜1/125秒。被写体の速度や撮影距離によって調整します。撮影時は、被写体の動きに合わせてカメラをスムーズに横移動させること。コツは、シャッターを切る瞬間だけでなく、「動きを追う意識」を写真全体に持たせることです。

最初は失敗の連続かもしれません。でも、ある瞬間から、写真の中に“風”を感じるようになります。それはきっと、被写体とあなたの動きが、ひとつになった証拠です。

ISO感度と絞り値のバランスを整える

動きに注目しがちなモータースポーツ撮影ですが、光の扱いもまた作品の印象を大きく左右します。ISO感度とF値(絞り)の設定は、その両方に関係する重要なポイントです。

晴天の屋外サーキットでは、ISO100〜400程度で十分な明るさが得られます。一方、曇天やナイトレースでは、ISO800〜1600以上が必要になることも。画質と明るさのバランスを意識しながら、シーンごとに調整しましょう。

絞り値はF5.6〜F8前後が標準的ですが、背景を少しぼかして被写体を際立たせたい場合はF2.8〜F4あたりも選択肢に入ります。特に望遠レンズでは、被写界深度が浅くなるため、ピント位置にも細心の注意を払いましょう。

ISOとF値は、“速さの中にある光”をどう描くかという、もうひとつの表現です。目に見えるスピードを超えて、空気感まで写し取りましょう。

撮影環境と構図の工夫で差をつける

同じレース、同じマシンを撮っても、人によって写真の印象はまったく異なります。それはなぜか──答えは、「どこで、どう撮るか」という“視点の差”にあります。モータースポーツは単なる記録ではなく、瞬間のドラマを写す表現。撮影場所や構図を意識することで、あなたの写真はグッと“語る一枚”に変わっていきます。

この章では、現場で実践できる構図の考え方と、撮影環境に関する具体的な準備についてご紹介します。

構図を意識して“物語”を写す

速く動く被写体を追うと、つい「中央に収めること」ばかりを意識しがちです。しかし、印象に残る写真には必ず“構図”という視覚的な仕掛けが存在します。例えば「三分割構図」を用いれば、空間に“余白”が生まれ、見る人に想像の余地を与えることができます。

さらに、「マシンが向かう方向にスペースを取る」「背景に観客や看板を入れて臨場感を出す」といった工夫も、写真に“物語性”を与える重要な要素です。単にマシンを切り取るだけでなく、「その場の空気」や「レースの流れ」まで想像できるような構図を意識しましょう。

構図とは、写真の中に“時間”を閉じ込める技術でもあります。目で追った速さを、心で感じる余白に変えていく。それが、撮る者の物語性です。

機材の準備とメンテナンスで安心を得る

どれだけテクニックを磨いても、現場でカメラが動かなければ意味がありません。特にモータースポーツの撮影では、長時間・屋外・高速連写といった条件により、機材にかかる負担は大きくなります。

望遠レンズは200mm以上が理想的ですが、APS-C機であれば100〜135mm程度でもある程度の迫力が得られます。また、一脚があると重たいレンズの支えになり、構図の安定にもつながります。加えて、予備バッテリーやメモリーカードは必須。連写や高画質記録によって消費が激しいため、事前のチェックを怠らないようにしましょう。

さらに、サーキットは風や砂埃、急な天候変化も多い場所です。レンズ保護フィルターやレインカバーなど、機材を守るアクセサリーも準備しておくと安心です。撮影は技術だけでなく、“備え”もまた重要な力。安心してシャッターに集中できる環境こそが、いい写真を生む土台になります。

まとめ

モータースポーツ撮影は、速さと音と緊張感が渦巻く世界。その一瞬を切り取るために必要なのは、特別な才能ではありません。カメラの設定を理解し、撮り方を工夫し、何より“感じ取る力”を大切にすること。それが、初心者でも魅力的な一枚にたどり着くための近道です。

今回ご紹介した「7つの基本」は、どれも現場で実際に試し、失敗と成功を重ねながら見つけた“実感のあるヒント”ばかりです。設定に迷ったら立ち止まり、構図に悩んだら空を見上げてください。大切なのは、シャッターを切ることに“気持ち”を込めること。

この冒険は、まだ始まったばかりです。あなたのレンズが捉えた一瞬が、いつか誰かの心を熱くする——そんな1枚を、これから一緒に目指していきましょう。

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